一般の相加・相乗平均の不等式

(Date: 2023.9.1)

${\displaystyle a_n = \left(1 + \frac{1}{n} \right)^n}$ が収束することを示せ, という問題を出すと, $a_n$が単調増加であることを一般の相加・相乗平均の不等式 \begin{equation} \label{arith-geom ineq} x_1, x_2, \ldots, x_n > 0 \ \mbox{ならば}, \quad \frac{x_1 + x_2 + \cdots + x_n}{n} \ge (x_1 x_2 \cdots x_n )^{\frac{1}{n}} \end{equation} を使って証明してくる学生が多いのだけれども, いまだにその証明をきちんと書いてくる学生を見たことがない.
そんなに簡単な式かなぁ? と思うので, 自分の備忘録も兼ねて, ここで証明してみることにします.
例によって例のごとく, ここは茶呑み話的な場所なので, この証明を鵜呑みにしてレポートに書いてバツをもらっても私の責任にしないでください. (予防線)


では, 証明に使うもの.
Youngの不等式: 任意の$a > 0$, $b > 0$について, \[ p, q > 1 \ \mbox{が} \ \frac{1}{p} + \frac{1}{q} = 1 \ \mbox{をみたすならば, } \quad \frac{a^p}{p} + \frac{b^q}{q} \ge ab. \] 証明はH. Brezis, Functional analysis, Springerなどを見てください.

相加・相乗平均の不等式(\ref{arith-geom ineq})の証明. 帰納法による.
$n=1$のとき, 左辺$=$右辺$=x_1$より成立.
自然数$n$について, (\ref{arith-geom ineq})が成り立つとすると, \begin{align*} \frac{x_1 + x_2 + \cdots + x_n + x_{n+1}}{n+1} & = \frac{n}{n+1} \cdot \frac{x_1 + x_2 + \cdots + x_n}{n} + \frac{1}{n+1} x_{n+1} \\ & \ge \frac{n}{n+1} \cdot (x_1 x_2 \cdots x_n)^{\frac{1}{n}} + \frac{1}{n+1} x_{n+1} \qquad (\because \mbox{(\ref{arith-geom ineq})}) \\ & = \frac{n}{n+1} \cdot \left( (x_1 x_2 \cdots x_n)^{\frac{1}{n+1}} \right)^{\frac{n+1}{n}} + \frac{1}{n+1} ( x_{n+1}^{\frac{1}{n+1}} )^{n+1} \\ & \ge (x_1 x_2 \cdots x_n)^{\frac{1}{n+1}} \cdot x_{n+1}^{\frac{1}{n+1}} \qquad (\because \mbox{Youngの不等式}) \\ & = (x_1 x_2 \cdots x_{n+1})^{\frac{1}{n+1}}. \end{align*} よって任意の自然数で(\ref{arith-geom ineq})は成り立つ.

ちなみにもとの問題であった ${\displaystyle a_n = \left(1 + \frac{1}{n} \right)^n}$ が単調増加であることについてはYoungの不等式から証明できるので, その目的から見れば一般の相加相乗平均は不要.
また, 相加・相乗平均の不等式を示すのとYoungの不等式を示すのではどちらが初等的か? ...どっちなんでしょうねぇ.


そういえば本稿を書くにあたり, 相加・相乗平均って英語でどう言うのだろう? と思い調べてみたら,
arithmetic-geometric mean
だそうですね. 一つ勉強になりました.


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