${\displaystyle a_n = \left(1 + \frac{1}{n} \right)^n}$
が収束することを示せ,
という問題を出すと, $a_n$が単調増加であることを一般の相加・相乗平均の不等式
\begin{equation}
\label{arith-geom ineq}
x_1, x_2, \ldots, x_n > 0 \ \mbox{ならば}, \quad
\frac{x_1 + x_2 + \cdots + x_n}{n} \ge (x_1 x_2 \cdots x_n )^{\frac{1}{n}}
\end{equation}
を使って証明してくる学生が多いのだけれども,
いまだにその証明をきちんと書いてくる学生を見たことがない.
そんなに簡単な式かなぁ? と思うので, 自分の備忘録も兼ねて, ここで証明してみることにします.
例によって例のごとく, ここは茶呑み話的な場所なので,
この証明を鵜呑みにしてレポートに書いてバツをもらっても私の責任にしないでください.
(予防線)
では, 証明に使うもの.
Youngの不等式:
任意の$a > 0$, $b > 0$について,
\[
p, q > 1 \ \mbox{が} \
\frac{1}{p} + \frac{1}{q} = 1 \
\mbox{をみたすならば, } \quad
\frac{a^p}{p} + \frac{b^q}{q} \ge ab.
\]
証明はH. Brezis, Functional analysis, Springerなどを見てください.
相加・相乗平均の不等式(\ref{arith-geom ineq})の証明.
帰納法による.
$n=1$のとき, 左辺$=$右辺$=x_1$より成立.
自然数$n$について, (\ref{arith-geom ineq})が成り立つとすると,
\begin{align*}
\frac{x_1 + x_2 + \cdots + x_n + x_{n+1}}{n+1}
& = \frac{n}{n+1} \cdot \frac{x_1 + x_2 + \cdots + x_n}{n}
+ \frac{1}{n+1} x_{n+1} \\
& \ge \frac{n}{n+1} \cdot (x_1 x_2 \cdots x_n)^{\frac{1}{n}}
+ \frac{1}{n+1} x_{n+1}
\qquad (\because \mbox{(\ref{arith-geom ineq})}) \\
& = \frac{n}{n+1} \cdot \left( (x_1 x_2 \cdots x_n)^{\frac{1}{n+1}} \right)^{\frac{n+1}{n}}
+ \frac{1}{n+1} ( x_{n+1}^{\frac{1}{n+1}} )^{n+1} \\
& \ge (x_1 x_2 \cdots x_n)^{\frac{1}{n+1}} \cdot x_{n+1}^{\frac{1}{n+1}}
\qquad (\because \mbox{Youngの不等式}) \\
& = (x_1 x_2 \cdots x_{n+1})^{\frac{1}{n+1}}.
\end{align*}
よって任意の自然数で(\ref{arith-geom ineq})は成り立つ.
ちなみにもとの問題であった
${\displaystyle a_n = \left(1 + \frac{1}{n} \right)^n}$
が単調増加であることについてはYoungの不等式から証明できるので,
その目的から見れば一般の相加相乗平均は不要.
また, 相加・相乗平均の不等式を示すのとYoungの不等式を示すのではどちらが初等的か?
...どっちなんでしょうねぇ.
そういえば本稿を書くにあたり,
相加・相乗平均って英語でどう言うのだろう?
と思い調べてみたら,
arithmetic-geometric mean
だそうですね.
一つ勉強になりました.